REPORT_16 命を績む原始布「藤布」/ 遊絲舎・小石原将夫さん
■藤布とは 4月下旬から5月上旬にかけて甘い香りを放ちながら、薄紫の可憐な花房を垂らす藤の花。万葉集にも歌われている日本古来の花木、藤。可憐な美しい花を守るようにその蔓は強い陽射しを浴びながら太く絡み合いながら成長していきます。 京都府京丹後市で100年以上の歴史を持つ絹織物を製造してきた機屋小石嘉織物の4代目:小石原将夫さんは「藤布」を現代に伝える織元「遊絲舎」を営んでいます。 織物の原点、藤布は苧麻、葛、しな、芭蕉布と並び、5大原始布として古代から人々の体を守ってきました。江戸時代、木綿が普及するまでは全国で盛んに織られていましたが、次第に途絶え幻の布となっていました。 昭和37年に京都府教育委員会の民俗資料調査により丹後の山間の小さな里、上世屋で海女が用いる”スマ袋”が藤布で作られていることが発見されました。 そこの女性たちが仕事の合間に藤布を織っている様を1978年小石原さんが30歳の時にテレビ番組“木を織る女たち”で見て驚き4~5年通いましたが、作業工程のタイミングが合わず、教えてもらえなかったそうです。しかし現在では在日本で唯一その技術を伝え続けている丹後藤織り保存会のメンバーとして京都無形文化財の「藤布」を守り続けています。 小石原さんの織る藤布は、繊細で肌に溶け込むようなしなやかさときらきらと輝く透明感があり、繊維が体の奥まで染みわたって来るような感覚は自身の奥にある太古の記憶を呼び覚ましてくれるような気がします。 パリで開催される世界最高峰のテキスタイルの見本市「プルミエール・ヴィジョン」の中でも、希少価値や技術の高い匠のみが出展できる特設部門「メゾン・デクセプション」への招待出展等、海外有名ブランドからも高く評価されています。 ■ 藤布ができるまで 藤布の制作には、まず山で自生する藤を採取することから始まります。現在では山が荒れていて入手が困難になってきたそうです。採取した藤蔓は表皮を剥ぎ、中の皮(アラソ)を木槌で叩きながら取り出し、強いアルカリで不純物を取り除くために灰で炊きます。 その後、コウバシという道具を使って冷たい川水でアラソをしごきながら洗い繊維を取り出します。その繊維を結び玉ができないように結んでいくのですが「績(う)む」というこの作業に一番時間がかかるそうです。 絹や綿のような綿状のものから繊維を引き出し、撚りをかけて糸を作る