REPORT_02 (株)西山産業 白山工房 牛首紬
「j布」伝統工芸品の布
「j布」ブランドとして、経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」としての染織品を生産する企業を今回は紹介したいと思います。日本の繊維産業の素晴らしさは、先端科学技術を製品化できる企業を擁する経済先進国でありながら、伝統の手仕事を継承する工房まで存在する奥深さだと言えるでしょう。今回紹介する(株)西山産業さんは、伝統の手仕事を継承し「牛首紬」を生産し続けている「白山工房」を運営しています。現在この牛首紬を織り続けている工房は「加藤手織牛首つむぎ」さんと今回紹介する「白山工房」の二つの工房のみです。
「牛首紬」の起源
「白山工房」のある石川県白山市白峰という地は、霊峰白山の麓にある典型的な雪深い山村で、古くから養蚕や大麻栽培が盛んに行われてきました。白峰は手取川の上流に接する地であり、織物業に不可欠な水の豊かな地です。今の白峰は、牛首村、桑島村、下田原村が合併し、白峰村となり現在に至ります。手取川ダムに沈んでしまった旧桑島村を中心に栽培されていた大麻を原料として、かつては麻織物も織られていました。この地で盛んだった養蚕で、生糸の原料として売れない屑繭、玉繭を糸にし、牛首村中心に織られていた普段着の為の布が「牛首紬」の起源とされ、その地名がつけられました。名前の由来は、伝承によれば平治の乱(1159年)で敗れ、牛首に流れてきた源氏の落人、大畠某の妻女が機織の技を伝授したのがその始まりとされています。
(株)西山産業と繊維業
元々、白山市白峰を創業の地とする建設業の会社ですが、戦後まもなく途絶えかけていた「牛首紬」を産業として復興させました。現在も伝統的な手法、技法で「牛首紬」を生産し、生産工程は織りの資料館として一般公開しています。なお、「白山紬」もかつて金沢市内で織られていた機屋さんが廃業してしまい、登録商標を譲り受け、現在は鶴来工場で織られています。「白山紬」は、もともとは石川県白峰村で織り出された紬で、現在の牛首紬と同じ起源でした。(株)西山産業さんは、地元の失いかけていた染織文化を復興し、継承すべき伝統文化を大切に守ってきた企業です。(写真:牛首紬)
「白山紬」と「牛首紬」
白山紬」は、機械動力式の織機である力織機で織られている紬織物として、登録商標されています。「白山紬」に使われている糸は、経糸は生糸で緯糸のみ節糸が使われています。「白山紬」に使われている節糸は、人工的に生糸に節のようにところどころに太い部分をつけ風合いを作り出した「スラブヤーン」という糸を使っています。光沢があり丈夫でしっかりとした生地なので、着物に仕立てたときに裾さばきのよさや風合いの良さを感じられる着物になります。
一方「牛首紬」は、ひとつの繭に二頭の蚕さんが入った特殊な繭「玉繭」から手挽きした玉糸を緯糸に使用します。この玉糸は、「玉繭」を煮込み、手作業で「のべひき」という伝統技法で紡ぎ出される糸です。織は高機で織られ、緯糸は「手投げ杼」又は「引杼」を用いて打ち込まれなければなりません。紬織物と絹織物の両面を秘めた独特のふんわりとながらもしっかりとし、肌に馴染む着心地の良い着物になります。別名「釘抜き紬」と呼ばれるほどの強さも兼ね備えています。「牛首紬」は石川県指定無形文化財、経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」に指定されています。
(上:玉繭 下:上段は先染経糸、下段は先染緯糸)
「白山工房」での「牛首紬」の製作工程
今回訪ねた「白山工房」は、「牛首紬」のみを生産している工房で、織物産地では極めて珍しいとされる全工程一貫作業によって作られています。特に特徴的な工程について、ここで紹介したいと思います。繰糸→煮繭の終わった繭から繭糸を引き出します。緯糸の場合、玉繭約六十個からそれぞれの糸を挽き出し、合わせて一本の糸にします。玉繭は二頭の蚕の吐いた糸が複雑に絡まっており、良い糸を挽くには熟練を要します。これを「のべひき」と言います。(動画:繰糸のべひき)
撚糸→水を打ちながら糸に負担をかけない八丁撚糸機を使い、生糸を損傷しないように撚ります。染色→先染糸の染色は自社で行い、草木染めを行うこともあります。牛首村の伝統的な染色法として、「藍染め」と「黒百合染め」があります。特に一つの植物から鮮やかな緑色に染める技法は他にはなく、村の古老の言い伝えを研究し、幻の染めを復元させたものです。製織→織り肌を美しくするための工夫として、「箱とび二丁杼」が用いられ、作業能率を向上させるため緯糸を通す工程を投杼から引き杼装置に改良してあります。(動画:製織工程)
製織に際しては両足交互の足踏みによる開口、右手に持つ紐の操作で左右に飛ぶ緯糸の供給、左手に持つ筬框(おさかまち)での打込み、この三つの両手両足の動作が一瞬の狂いも無くぴったり合って初めて可能です。この動作は時間を掛けて身体で 記憶するものであり永い経験を必要とします。よこ糸は繊度むらが多く、これらの糸を取り除く度合いが繊物の品質を決定します。製織中は常に繊上面を注視し、一本一本丁寧かつ力強く織り込むことで、牛首紬独特の風合いが生まれます。
着物以外の用途への展開
着物の需要が減り続ける中、西山産業さんは、着尺和装小物や財布、名刺入れ、ブックカバー、御朱印帳、ネクタイ、ストール、マスクなどの多様なアイテムを増やし、現代の生活の質的向上につながる商品開発を行い、伝統の織技術を繼承し続ける努力を惜しみません。近年では、ファッションアパレルとしても注目され、メゾン・エ・オブジェ、プルミエール・ビジョン(パリ)の出品やパリコレのコレクション素材にも多く使われ、様々な海外展開もなされています。その他に、地元の社会貢献活動として(公財)白山麓僻村塾、(NPO)白山高山植物研究会への支援も行っています。
白山工房ホームページ:
石川県牛首紬生産振興協同組合ホームページ:
(株)西山産業ホームページ:
REPORTER:大高 亨(TDA執行委員)
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