REPORT_03 和綿を育てて学ぶSDGsとエシカルな消費
ー はじめに ー
田畑 健(たはたたけし・2015)『ワタが世界を変える』地湧社。この書籍をご存じの方もおられると思いますが、著者の田畑氏は、今日の世界中の経済格差の問題を「ワタが世界を変える-衣の自給について考える」と言う視点から捉え、「誰もが飢えることのない社会へ」という著者自身の生き方の思想が貫かれており、「みんなが豊かに生きるには」という問題提起がなされています。もともと日本には在来種の綿があり、人々の衣生活の自給がなされ、綿の栽培が農村の日常風景であった時代から近代化によって、日本では栽培がほぼなされなくなっていく課程が詳細に書かれています。さらにインドとイギリスの綿を巡る様々な政治経済の関係と、近代化によってもたらされた悲劇などを明らかにしています。この歴史思想編と、著者自ら和綿の復活を願いながら栽培をし、紡ぎ、機織りをする生活の流れを紹介している技術編との2部構成になっています。まさにSDGsが掲げる「よりよい未来」へ向けて考える教本だと思います。このレポートでは、著者の田畑氏と一時期行動をともにして「綿」と「みんなが豊かに生きるには」について学び、純オーガニックコットンの事業を立ち上げた「メイド・イン・アース/(株)チーム・オースリー」代表の前田剛氏のプロジェクトをご紹介しながら、私達が向かう本当の豊かさ「SDGs」の実現について考えてみたいと思います。
「メイド・イン・アース/(株)チーム・オースリー」
代表の前田剛氏は1995年(平成7年)に素晴らしい純オーガニックコットンを使用したタオルや寝具、ホームウェア・ベビー用品・ストールなどの企画製造販売をスタートなされ、多くの支持者を得ています。「和綿プロジェクト」の展開や、「カンボジア地雷原コットンプロジェクト活動」への参加や「布ナプキン普及プロジェクト」活動など、環境や人々の幸せな暮らしに必要なものは何か?を積極的に追求しています。
ー 和綿畑から考える ー
「和綿プロジェクト」では小学生から高校生を対象にして自主的に学校訪問をし、「日本の在来種である和綿の種を守っていくことについて」「衣の自給とエシカルな消費」「自給自足の喜び」「環境問題」等についての講座を実施されています。また、大人も交えて神奈川県横浜市郊外の畑で、和綿を育てて学ぶワークショップも実施されています。「生きて行く上で、衣はどのように得ていくのか?」「土地の安全性はどのように守るのか?」を、直接種をまき、収穫する土との触れ合い体験を通して理解する実践的な学びです。環境に配慮したと認証されるエコマーク等を学校で教え、商品の選び方を学ぶ事も大切です。がしかし、まず小さな子供達に、私達が普段消費するものについて、「意識すること」「より良いものを、何処でどのくらいの規模と量で作るのか」を教える事が大切だと前田氏は考えています。この活動がもたらすものは、世界を様々な視点で捉える力でしょう。この力のリソースとなる知識を多く持つことが、子供達の未来の豊かさを左右するのは言うまでもありません。また、綿をテーマにした大学生の研究や、卒業制作の取り組みなどの相談にものっていただけるとのことです。自分で育てた綿を作品にする体験は貴重なものとなるでしょう。
ー「カンボジアの地雷原プロジェクト」(WITH-PEACE)ー
NPO法人Nature Saves Cambodia-Japan(2010年設立/2017年に活動中止)は、地雷原から地雷を除去し、その土地を開墾し、無農薬無化学肥料によるオーガニックコットンの畑にすることで、地雷被害者の自立支援、生活向上を目指す活動を行った団体です。前田氏はこの活動に共鳴し2010年にカンボジア地雷原コットンプロジェクト「WITH-PEACE」をスタートさせました。主に地雷被害者やその家族達が、希望を持って綿を育て紡ぎ、染色し、手織りによる美しい布を作り、地域の経済状態を向上させるものです。この支援プロジェクトとコラボし、自社の製品として展開しています。この活動の中で前田氏が強く胸を打たれたことの一つに、収入を得た機織りの老婆がつぶやいた『これでやっとお寺に寄付が出来る』という言葉があります。自然界のすべての事象に感謝するアニミズムの存在を、急激に巨大な経済発展を遂げた先進国の私達は忘れてしまっています。カンボジアの人々の、人間性と文化の理解なくしては、成り立たたぬ援助と支援のあり方の一例でしょう。未来の豊かさを望みつつも「むさぼらない生き方」は、SDGsの詳細を知らずとも、先祖伝来の土地で綿花を栽培し、紡ぎ、機織りをする日常に受け継がれているのです。
ー「布ナプキン普及プロジェクト」ー
女性の体と環境に配慮した取り組みとして、「布ナプキン普及」のワークショップも開いています。現在、「生理用品が買えない貧困女性」のニュースを多く聞くようになりました。行政からの配布支援も重要ですが、天然素材の綿でナプキンを自分で作る知識を持ち、普段から使い慣れていれば、生活困窮時や支援物資が届かない災害時にも、身近にある様々な素材を使用して対応が出来るのです。市販の「紙ナプキン」の吸収体は高分子ポリマーで、肌に直接触れる面も、ポリエチレンフィルムや不織布で石油から作られている製品です。使用後はゴミとして捨てられ、ゴミを焼却するのも、埋め立てるにも多くのエネルギーを使います。布ナプキンならば体に優しく、洗濯して繰り返し使えます。心地よさと安心感を得て、健康な暮らしが送れることをこの普及プロジェクトは教えてくれています。
ー どのような未来へ向かうのか ー
「オーガニックコットンを広めていくことで地球環境や世界中の人々が、ハッピーになっていくと信じ、日々使用するコットン製品や綿の栽培を通して、遠い異国の地や未来の社会を想像して、考え、選択して行動し続ける「商品」や「場」を作って行きたい」と前田氏は述べています。この根底には「SDGsが掲げる17の達成目標は、本来誰しも心と体は知っているのだ」という真摯な思いがあることは言うまでもありません。世界中の人々の健康と地球環境を守るために、そしてシンプルな豊かさを未来へ向けていくために、私達は何が出来るのかを一緒に考えて見ませんか。
「メイド・イン・アース/(株)チーム・オースリー」
http://www.made-in-earth.co.jp/Reporter:松田 純子(SDGs・産地・教育 執行委員)
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