REPORT_05 久留米絣 〜伝統を日常で着る〜 「わの栞」

今回は、久留米絣の産地で伝統的な素材を日常で着ることをテーマにオシャレな装いを提案されている 「株式会社 わの栞(わのしおり)」を紹介します。

● 松村かおりさんとの出会い

代表の松村かおりさんとの出会いは 8 年前のビッグサイトでの展示会、 日本の伝統的な織物を今に表現するという共通の観点から、当時お世話になっていた百貨店のバイヤーさんからの紹介でした。その出会いをきっかけに数年後には久留米絣、西陣織、近江の麻に関わるメンバーで展示販売会 「ふ・fu・布~和の彩りをまとふ~」が始まり、4年間ご一緒させてもらいました。 拠点を置く地域や事業規模は違えども、長い歴史の中で培われてきた素材、伝統技をどう継承していくのか、 そのための周知や販売についてのノウハウを学ばせてもらいました。 松村さんの生み出されるデザイン、そしてその接客力の素晴らしさはどこから来るのだろうかと眺めていました。 伺うところによれば、前職の経歴が興味深いものでしたが、間違った情報をレポートしてはいけないと思い、 今回改めてお話を伺いました。

「三越で、入社後すぐの配属がティファニーで、その後エルメス 7 年、呉服 6 年。エルメスでは、店長兼バイヤーとして、Parisへの買い付けも 7 回ほど行きました。1 週間で半年分の全てのアイテムの買い付けをするハ ードスケジュール。ここで、物を見る目が鍛えられたと思います。その後、呉服でも、店長として売り場の催事 企画及び運営と商品仕入れなどを任されていました。何が売れるか? お客さまのニーズを考えながら、催事の 企画や商品の仕入れをすることは、とにかく大変でしたが、企画が好評だったり、売上げが作れると、本当に楽しくやりがいのある仕事でした。この時の経験が今の仕事にとても役立っています。」とのコメントをいただき、 納得のプロセスに改めて感動しました。

「ふ・fu・布 和の彩りをまとふ」DM より

● 久留米絣 
久留米絣(くるめかすり)は、福岡県の筑後地方(旧・久留米藩)で古くから製造されている綿織物です。藍染めが主体の久留米絣は、愛媛の伊予絣、広島の備後絣とともに日本三大絣の一つとされ、国の重要無形文化 財に指定されています。私も絣の技法で布を作っていましたが、プリントでは表現できない糸の染足が好きでした。染める部分と染めない部分を作るための「くくり」や、藍などで先に糸を「染める」作業、そして文様がずれないように「織る」工程など、一反の久留米絣を作り上げるのにおよそ三十もの工程があり、そのひとつひとつにそれぞれの職人たちの想いが込められ手間がかけられています。オートメーションでは生まれない「かすれ」や「にじみ」も、人の手が生み出す久留米絣の魅力になっています。

また久留米絣は通気性が良いため夏は涼しく、内側の熱が逃げにくいため冬は暖か。洗えば洗うほどに色が冴え、着れば着るほどに肌馴染みが良くなる。綿織物の丈夫さ・着心地の良さに高い芸術性を併せ持ち、フォーマルか らカジュアルまで、どんなスタイルにも合わせられる織物です。
わの栞 HP より



久留米絣の伝統的な色柄を守りながらも、松村さんの生み出されるスタイルは、古典的なイメージではなくセンス良く定番的なパターンを提案されています。エルメスバイヤーとしての目利きが存分に活かされているのだと思います。

わの栞 HP より


● 日本のものづくりに想いを寄せて 

ものづくりの先人たちは皆、使う人のことを想い、心をこめてものづくりをしてきました。
日本人ならではの器用さ、丁寧さによって、長く受け継がれてきた”日本のものづくり”の精神――ただ飾って 眺めるだけではなく、”使うため”のものをつくる技術。久留米絣をはじめとする様々な伝統の技に触れ想いを 寄せていく中で、私たちもまたこの精神を、次の時代へ引き継いでいかなければならないと感じました。 現代の日常にさりげなく寄り添う”伝統技術の新しい形”を提案し、日本のものづくりを未来へつなぐ。クラシ ックでモダン、伝統的で斬新、懐かしく、そして新しい。それが【伝統を日常で着る】わの栞のコンセプトです。HPの文章を読み返し、深く共感しました。松村さんは久留米絣の他にも日本の逸品をご紹介されています。

● インタビュー

① 大切にしていることは?
着る人のことをまず第一に考え、どうしたら着心地が良くなるか? 久留米絣は、とても肌触りの良い木綿の織物。しかし肌触りが良いだけでは、洋服の着心地には直結しない。だ からこそ、縫い代や肌に当たる部分の処理、どうしたら体に負担が少ないか、などを考えながら縫製しています。 

② 課題は?
 久留米絣の認知度がまだまだ低いこと。そして世間一般の久留米絣に対して「もんぺ」のイメージがまだまだ根 強いこと。上質な布、日本の大切な織物の技術があるから、それをもっと日常的におしゃれに楽しく着られるも のを作りたい。それが浸透していくようにしなければならないのですが、まだまだ足りないところ。反物の幅 38 センチの生地なので、織物としても大変だし、洋服を作るには、縫製の技術も必要なので、工場で の大量生産ができないため、価格がどうしても高価になってしまうところが課題です。 

③ 挫折しそうになったことは?
 中々思うように形にならなかったり、出展しても誰も興味を持ってもらえなかったり、「まあ、良いけど高いわ ね。」とか...。「久留米絣、もんぺね!」とか。自分の思いが伝わらない時が何度もあります。


● 誰から買いたいか
価格破壊、環境破壊を生んでしまった大量消費大量生産型の社会からの脱却。
SDGs が叫ばれる中、また長引くコロナ禍を経験し、ものづくりの姿勢、商品購入の価値観が変化してきている と感じます。 単に物を売る時代から、誰が作っているのか、どんな工程で作られているのか、どんな歴史があるのか、そして 誰から購入するのか、言い尽くされた言葉になりますが物語りを売る時代になりました。 わの栞の松村かおりさんには大勢の顧客さんがついておられます。 お客さまのための着こなしの提案をさりげなく織り交ぜての会話、彼女のコミュニケーション能力の高さ、 まさに、物語りを売っておられるのだと思います。 各地の百貨店で催事を開催されています。機会があれば是非、久留米絣の伝統技術と共に、松村かおりさんの魅 力に触れてみてください。

REPORTER : 北川陽子 (TDA執行委員)

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