REPORT_06 綿素材の良さを追求する 倉敷帆布株式会社
●倉敷帆布との出会い
私と帆布製品との記憶に残る出会いは、大学時代に作品制作用の前掛け風エプロンが欲しくて購入したことです。以来、その帆布製エプロンは30年近く愛用し、今でも現役で活躍しています。時は経ち、今から約15年前に岡山県倉敷市に在住し、倉敷市立短期大学を通じてテキスタイル関連教育に従事し続けています。着任する前から倉敷児島には多様な繊維産業が存在していることは周知しており、大変興味深い印象を持っていました。
今回はその多くの繊維関連企業の中から、伝統と歴史を持つ倉敷帆布株式会社を紹介します。倉敷帆布株式会社は2021年に株式会社バイストンから社名を変更しています。帆布生地製造が主体であった歴史から、近年は独自の商品開発を展開し、倉敷帆布としてのブランドが全国的に認知され始めています。このような時代の移り変わりの中、しっかりと倉敷帆布をお伝えしていくことの必要性から社名変更を行ったとのことでした。
この度のj布レポートにおいて、武鑓篤志社長に取材のご協力をいただいています。この取材を機に、以前から気になっていた先の大学生から使用している帆布エプロンはこの倉敷の地で製造されていたことが分かり、何か大きなつながりを感じることとなりました。
実はこれまで倉敷帆布株式会社から多くのご協力をいただいています。2017年には日本テキスタイルデザイン協会においても倉敷児島産地見学ツアーとして、工場見学を実施し、産地の現状を知ることができています。現在、在籍している服飾美術学科としても産学共同研究などにおいて、教育機関と連携させていただいております。
倉敷帆布本店 |
●綿素材のこだわり
先に述べたように、これまで倉敷帆布さんとは連携事業のご協力をいただき、武鑓社長と打ち合わせを行ってきてきます。今回の取材は改めて、帆布製造の歴史、ものづくりに対するお話を伺うことができました。
遡れば、帆布は戦後昭和30年頃からトラックの幌、テントシートなどの資材から、新聞配達員や牛乳配達員の袋など生活に関わる布として普及します。昭和40年代頃からはポリエステルなどの化学繊維の普及と同時に帆布として使用されていた資材や商品が軽量な化学繊維へと移り変っていきます。また、トラックのアルミボディ化により、幌の生産自体も減少していきます。
社会環境が変わる中でも、倉敷帆布株式会社は綿素材の良さをどのように伝えるかを追求し続けています。今回、製品化した商品を販売しておられる本店での取材でしたので、多くのデザインされた商品を見せていただくことになりました。
帆布は嫌いな方は少なく、むしろ好きな方が多いように感じています。その良さは触れた時や見ための素材感であると思います。実際、商品に触れてみると布の硬さが実は違うことに驚きます。帆布には1号から11号までの生地の厚みの違いがあり、それぞれの用途に応じて使い分けされています。
現在、主な商品はカバンですが、取っ手部分と本体袋部の生地の厚さを変えることで、取っ手は柔らかく持ちやすく、袋部分は丈夫に仕上げているデザインを紹介いただきました。また、帆布織物製造は一般的に切り取る耳の端材が発生せず、シャトル織機によりヨコ糸が折り返し織られるため、セルヴィッジという美しい生地端が生まれるのです。
この部分を生かした商品も何点かご紹介いただきました。織幅に関しては、JIS企画の時は生機で厚めの号数は36インチ(91.5cm)、薄めの号数は38インチ(96.5cm)としていますが、商品企画の段階では自由な織幅でも調整されています。
商品デザインを考える際に、例えばカバンのサイズに合わせた織幅設定により、取っ手部分と袋部分の生地を必要最低限に収めた織物製造設計になっています。無駄な生地を出さないところは現在のSDGsの方針であると感じました。
少し、整理すると号数による生地の厚みが豊富であり、織幅調整が可能、織物の耳が美しい、また先染めによるカラーリング、縞柄展開も可能です。これらを組み合わせながらデザイン企画を行うことにより、織物メーカーとしての特色あるものづくりが出来ることを武鑓社長とのお話から知ることが出来ました。
現在の商品化において注目すべきブランドは「JOBU」シリーズです。キッチン関連商品からカバンまでの商品展開があり、ブランド名通りに丈夫な帆布生地使用がポイントです。倉敷には国産ジーンズ産業もありますが、ジーンズのように帆布は使えば風合いが出る、味が出る素材です。天然繊維を長く使うことも消費者にとって環境に配慮したライフスタイルではないでしょうか。
左:JOBU商品(一部)右:倉敷帆布本店内(倉敷市曽原)
●地域との関わり
倉敷帆布さんと取り組みました一つの事業展開をご紹介したいと思います。地元倉敷市の小学校で「君もテキスタイルデザイナーになろう!」と題したワークショップを行いました。ワークショップは3回に分けて行い、導入は帆布、畳縁織物、ジーンズ、学生服の地元繊維産業を知ってもらうお話を行いました。
その後、各参加児童が思い思いのデザインを考え倉敷帆布を使用したステンシル染めを行う内容です。帆布生地のご提供をいただき、日本テキスタイルデザイン協会会員の方々にも有志にてカバンをデザインしていただきました。カバンの一部は地元婦人会のご協力を得て、縫製していただいています。これらのカバンはワークショップを行った小学校の空き教室をギャラリー化し、展覧会を実施いたしました。
帆布生地は現在、倉敷から約7割程度の生産量があります。倉敷帆布株式会社は時代とともに帆布生地製造を続けてこられ、多くの人に帆布生地を使った商品として提供されています。130年以上前からの生地作りおける伝統を生かしながら、未来に向けた新たな商品開発もあり、今後の展開が楽しみであると実感いたしました。
ワークショップおいて小学生児童が制作したカバン作品(展示風景)
倉敷帆布株式会社工場内
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REPORTER : 田中孝明(TDA執行委員)
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