REPORT_08 播州織 tamaki niime「欲しいモノが無いから自分でつくる」

今回は先染め綿織物の播州織の産地、兵庫県西脇に移住し独自のアプローチを続ける「tamaki  niime」玉木新雌さんを紹介します。

◼︎玉木新雌さんとの出会い

それは約16年前、エスモードを卒業し繊維商社に勤めた後に自身のブランド「tamaki niime」を設立された頃に遡ります。知り合いの紹介で滋賀県の麻織物を見に来られたのが出会いでした。当初から日本の素材に注目をされていて、素材にこだわるデザイナーという印象でした。

その出会いをきっかけに、デザイナーであった玉木さんに「近江の麻」で洋服を作ってもらったり、ファッションショーのディレクションをお願いしたりしました。

その後、京都でのショップオープンを皮切りに2009年には西脇に移住、西脇3回目の移転で現在の場所へ、次々と大きく発展して来られています。

仕事のパートナーである酒井氏と二人で始められた時からの歩みを知っているだけに、現在の世界的に注目をされる存在、そのモノづくりの理念、そのブランド力に心から絶賛し、また感慨深く、尊敬しています。そんな玉木さんに久しぶりに会うために、2022年8月11日、tamaki niime を訪れ、改めてお話を伺って来ました。

◼︎玉木さんと播州織との出会い

東京で行われた生地の展示会で、たまたま播州織に目が留まり、「これ面白いですね。」とその場にいた人に声をかけたそうです。その方が播州織の職人、西角博文さんだったそうです。

この出会いが玉木さんの運命を左右することになります。何気に「もう少しこんな風にした方が良いと思う。」と提案したら、一週間後に「提案通りに作ってみた。」と連絡があり見に行かれたのが初めての西脇入りとなります。これが、先染めの播州織に魅了され、西脇に移住するきっかけにと繋がって行きました。それまで生地は生地屋で購入するもの、仕入れるものという概念が覆され、オリジナルで生地が作れるのだと知り、テキスタイルデザイナーとしての方向が固まったようです。

西角さんにオリジナル生地を作ってもらいシャツを作るところから始まったのですが、やわらかさにこだわり過ぎた結果、縫製が出来ない生地に変化していき、結果ショールに行き着いたそうです。

「only one shawl」このショールの取り組みがtamaki niimeの知名度を加速させました。もっと試行錯誤を繰り返したいと葛藤していた矢先に、西角さんに「私が居なくなったら、誰が生地を織るのや?」と言われたことがきっかけとなり、玉木さん自身で織機を動かすようになったそうです。織機を操作することで、さらに思い入れの深い生地の追求へと昇華されていきます。

◼︎tamaki niime  Shop&Lab

工房では、糸の染色、整経、織り、整理仕上げ、縫製、販売まで一貫した工程が成されています。染工場跡という広大な敷地の中に、それぞれの機械が恰好良く、効率よく配置されているその風景は圧巻、そしてすべてがオシャレに見えます。織機に限らず、丸編み機、島精機のニットマシンまで稼働していました。

スタッフの平均年齢も若く、tamaki niimeの服をまとい仕事をする姿は憧れの的となるはずです。全国からこの場、この仕事に興味を持ち、働きたいとやってくる若者が多いのも納得です。テキスタイルに関して全くの素人の方が多いそうです。経験が無くても現場を任される、出来るようになっていく、ものづくりと共に人づくりにも取り組んで行く環境なのだと思いました。

現場を見学し、説明を受け、丁寧なモノづくり、一点ものを目の当たりにすると、その後Shopに足を運んだら、当然何か欲しくなります。自分に似合う色を探したくなります。作品の持つ背景を含めて、tamaki niimeのファンになるのだと確信しました。これこそ「プロセスエコノミー」なのです。

Lab内の壁面、床、柱は白を基調にされている。色に溢れる素材を引き立てる工夫とのこと。

◼︎衣食住を整える

播州織の多彩な色合いに加え、やわらかさを追求し全くオリジナルな播州織に仕上げて行った玉木さん。さらなるオンリーワンを目指し、構想は続きます。

2014年からコットンの無農薬栽培を開始され、ようやく年間1.5t収穫(種込み)できるようになったそうです。いよいよ紡績工場を作る計画段階に入ったそうです。

実現すれば、全て自家生産で作品が整います。個人の作家として成されていることはあっても、この規模でビジネスとして成立させていかれる姿は本当に素晴らしいと思います。

そしてさらに、オンリーワンの理念はファッションに留まらず、無農薬の畑や田んぼも作られ、食に対するこだわりもShop2階のtabe roomで体感することができました。

Shop、Lab、tabe room、全てにおいての家具や小物、空間デザインのこだわりが見て取れました。全てがtamaki niimeの世界観を表現しています。

「niime村」構想、それは自分の身の回りの衣食住、全て自分たちの創ったもので満たされること。自分が気に入るものが無ければ自分でつくる、欲しいモノが無いから自分でつくる。子どものころからの姿勢が一貫していると玉木さんは語られていました。そんなこともあってか、子どもへの学びの場、遊びの場も提供されています。

西脇に移住して13年、現在の場所を拠点として6年。着実に夢を現実にされていく姿に大いに刺激を受けました。播州織の産地にて、テキスタイルに留まることなく生きる事全てにおいて一点モノ、唯一無二を追求していく。そしてコミュニティを生み出す。従来の産地の在り方とは異なる進化系産地。時代を常に先取りし、発展し続かれることを大いに期待しています。

「niime村」の先には「niime王国」が待っています。5年後、10年後が楽しみでなりません。


REPORTER : 北川陽子 (TDA執行委員)


tamaki niime HP 

https://www.niime.jp/

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