REPORT_12 横濱スカーフ/株式会社 丸加
■ 高い捺染技術と丁寧な手仕事による上質なスカーフ
今回は横浜でシルクのスカーフを中心としたオリジナルブランドのデザイン企画・製造から卸売、また受託製造でものづくりをされている株式会社丸加さんをご紹介します。
1952年の創業以来、手捺染によるこだわりと、精度の高いプリント技術により極めて上質なスカーフを製造されています。その技術の高さはプリントで名高いイタリア・コモとも肩を並べるほどです。
手捺染にこだわる理由は主にペネトレーションとスクエアネスにあります。首に巻くと裏も表も見えるスカーフは、裏が白いと価値が落ちるため、裏まで色を浸透させる必要がある。加えて、タテ・ヨコの地の目を正確に揃える必要がある。これらを考慮すると、オートスクリーンやインクジェットプリントより手捺染のほうがはるかに優位性が高いからです。
■ スカーフができるまでの工程
生産は分業で行われ、栃木県足利市の捺染工場にて捺染・蒸しの工程が行われています。
〔デザイン〕
様々な資料をもとにデザイン(図案作成)される。デザインによっては1〜2年をかけて丁寧に打ち合わせを重ね、デザインを練る。
〔製版〕
使用する色の数だけ捺染用の型をそれぞれ制作する。捺染用の型は型枠に薄手の紗を張ったもの。現在のように合成繊維が使用される前はシルクを使用しており、その名残からシルクスクリーンとも呼ばれている。スクリーンを使った捺染は1927年頃に世界的に広がったと考えられている。日本にも同じ時期に伝わる。
〔調色(色合わせ)〕
ミリグラム単位で計測した染料と糊を混ぜ、色糊を作る。
〔地張り〕
捺染台に生地を張る作業。生地の方向を確認し台に対し水平垂直に張っていく。この作業がプリントや縫製、仕上がりを左右するため慎重に行われる。
〔手捺染〕
型とスケージと呼ばれる大きなヘラを使用。向かい合って配置されている約25mの捺染台を往復し、色ごとに捺染していく。
〔蒸し〕
捺染の後に熱を加える事で染料を生地に固着する。
〔水洗〕
糊を落とし、色落ち等を防ぐために余分な染料を落とす。
〔縫製〕
職人さんが手でロール状に巻き込みながら均一に縫っていく「手巻き」と呼ばれる方法で、一針一針丁寧に縁を縫って仕上げる。手間がかかる作業であるが、ソフトでふっくらとした縁に仕上がる。
■ ファクトリーブランド
丸加さんでは2つのオリジナルブランドと、1つのオリジナルラインを展開されており、国内の市場に向けた商品を1シーズンで10〜20ほどリリースされています。
伝統横濱スカーフ
これまでのものづくりで集積された技術を具現化したスカーフ。比較的横浜を題材にしたスカーフらしいデザインが多い。手間と時間をかけてデザインした図柄の多くが20年を越えて長く愛されている。
Marca originals
シーズンごとに主にクラシカルなデザインの中から柄を選定し、これからの装いにちょうど良いカラーリングのスカーフを中心に展開。
the PORT by marca
毎日の生活に彩りを添えるプリントでありたいと願いを込めて誕生したブランド。色・柄は比較的ポップなものが多い。これまでにやったことのない、デザインを広げる試みもなされている。
スカーフに使用される生地のほとんどがシルク100%で、春物に麻・綿などのセルロース系が使用されることもあります。秋冬物としてウール・シルクウール・シルクカシミヤなどもストール系を含めて使用されています。
スクエアスカーフのサイズは約108cm×108cmが最大で、大判と呼ばれる約88×88cm、約65×65cm、約58×58cm、約53×53cmのサイズが展開されていて、約88×88cmサイズが現在の主流です。
昭和40年代前半は約80cm×80cmが主流だったようで、現在の約88×88cmサイズを大判と呼ぶのはそのためだそうです。スカーフ以外にもストール(長方形)、菱形、剣先など様々な形状、サイズを作り販売、またOEMでの製造をされています。
1枚のスカーフに使用される色数は通常8〜10色で、多いものになると40色にものぼるデザインもあります。それをずれることなく型をピタリと合わせ捺染する技術が前述の世界的に認められた高い技術の証です。現在は約500柄の型を工場にストックしているとのことです。
■ 産地を繋ぐコラボレーション
3年ほど前から、山梨県西桂町の老舗機屋である槙田商店と産地を跨いでコラボレーションし、晴雨兼用傘を販売しています。槙田商店は江戸時代から150年以上続く、甲斐絹の高い技術を継承した機屋さんです。
スカーフの図案から「ステンドグラス/ポーハタン号」が傘に展開されています。横浜開港記念会館の大ステンドグラスをメーンモチーフとし、4辺にはそれぞれ時代ごとに活躍した船舶、 4隅には重要文化財にもなった「日本丸」が配置された美しいデザインです。
槙田商店ではジャカード織物には3色までしか緯糸を使用していなかったのですが、この「ステンドグラス」のデザインを先染で表現するために4色にチャレンジし、その結果実現した商品です。この図案を含めて現在2柄(それぞれ大柄、小柄がある)を商品化し、今後も新しい展開を検討しておられるそうです。
■ 資源の有効利用
2020年頃から、プリントや縫製の過程で出た製品にできない生地、いわゆるB反を再利用したポーチや巾着を展開されています。シルクの優しい手触りに加え、中綿の入った柔らかな生地は、まるでシルクの布団のような何とも言えない気持ちの良い触感を生み出しています。「B反も不具合のある部分を除けばA反である」と、廃棄されるはずの生地を再利用し新たな価値としてアップサイクルされたアイテムです。
■ クローゼットが宝箱になるように
お話を伺った際に代表取締役の蟹江信之氏が次のように語っておられたのが印象的でした。
これからは、水を汚しCO2を排出して安いものを大量に生産するものづくりではなく、作ったものを永く大切に使ってもらえるようなものづくりであるべき。かつてのブランドビジネス全盛の時代は日本人の全員に売るというマーケティングだったが、これからはデメリットをも受け入れ、それでも欲しいと言ってもらえる人に絞り込んだマーケティングを探りたい。
購入されたお客様の思い出や思い入れとともに育っていき、やがて自分だけの大切な宝物となっていく。そんな宝物が増えて、クローゼットが宝箱になるように。そして、大事な時を過ごすために宝箱から取り出して身につけてもらえるような。私たちのスカーフが永く愛着を持って使っていただける存在であって欲しい。
シルクの特徴を理解し、スカーフを永く使用できるよう、取り扱いやメンテナンスについてホームページ等でも紹介されているのでご覧ください。
株式会社丸加 ホームページ
REPORTER:牛尾卓巳 (TDA執行委員)
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