岡山県倉敷市は多くの繊維製品を製造しています。国産ジーンズ発祥の地を代表するデニム製品や県内で8割ほどのシェアを持つ学生服のウェアをはじめ、バッグなどの生地である倉敷帆布は前回取材し、j布レポートでも取り上げました。
この度は学生服同様、多くの全国シェアを持つ畳縁織物を製造している高田織物株式会社のものづくりを紹介いたします。卒業生ゼミ生が高田織物に勤務していたこともあり、工場に隣接するショップ「FLAT」に何度か訪問していました。
柄の豊富さや畳縁としての用途以外のものづくりに興味を持ち、高田織物株式会社代表取締役高田尚志様にお会いし、先のものづくりのお話をお聞きするため、取材させていただきました。
畳縁織物は約8cmの幅で、岡山県内で製造される真田紐と同じく細幅タイプの織物になります。ルーツも重なる部分があり、高田織物は1890年頃創業の真田紐製造から段階的に畳縁織物製造に変わります。
2012年に初めて工場で織機や畳縁織物がぐるぐると巻かれた状態を見た時、非常に新鮮な印象だったことを思い出します。現在、畳縁織物製造メーカーは倉敷市唐琴地域に15社程度あり、最盛期よりは社数は減少しましたが、全国8割程度のシェアがあり、まだまだ伝統の和を支えています。
高田尚志様に会社の特色を伺ったところ、「多品種」、「小ロット」、「短納期」とのことでした。品種は約1,000種あり、先のFLATでそれらの生地を見ることができます。
FLATは畳縁織物を多くの人に知ってもらうために2014年にオープンしています。「畳の縁に使われる畳縁織物を選んで購入する機会はそもそも少なく、その機会がなければあまり関わることのない織物である。このようなことを意識し、接する機会を増やすため、多品種の生地を紹介できるショップFLATにつながった」と高田様はお話されました。
また、クリエイターとコラボした商品展開や、一般の方が畳縁織物を活用したものづくりができるよう、導くためのハンドメイドブック作りも積極的に行われています。
そして、クリーマーのクリエイターとのコラボやバッグ作りのコンペなど、畳縁織物生地からの自由な発想を導く素地を提供される企画が多くあることを知りました。高田様曰く、メーカーは生地を作る、そこからのデザインやものづくりは幅広く生み出されていくような環境作りを考えながら行動されるお話を聞き、ものが生まれるまで様々な人が介することが印象的でした。
「へそくり」(左下写真)と題した「じゃぱにーず筆入れ」は畳、和柄、忍者、へそくりの要素を盛り込んで海外の方に日本文化の一端を知ってもらうために作られたアイテムで、ケース内側底にへそくりを仕込むユニークな発想のお気に入りのものづくりです。
素材の特徴に関しての質問では畳縁織物はポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステルを主に使うことで軽く、耐久性があるとのことでした。また、縦糸密度がある構造で立体的な加工ができます。
コロナ禍から普及したオンライン活用により、海外に向けたハンドメイド講座も実施されています。コロナ感染症による社会情勢の変化に伴い、畳の交換サイクルが鈍化し、畳縁織物製造にも大きな影響があったのですが、それらを機に新たな畳縁の在り方の模索やオンラン環境下における新しいコラボレーションの在り方があることを取材の中で感じました。
また、女性の従業員の方が多い職場環境であり、家庭に配慮した働き方などにも向き合われていることもお聞きし、人からものづくりへ丁寧な循環が実現され、まさに畳縁の「縁」がある会社であり、社会とも何かの「縁」を生み出すことに向かっていることを感じることができました。
現在、高田織物では1日2万畳、年間400万畳分の畳縁を製造されており、全国シェアは4割あり、この数字を聞くと需要の多さがあることを実感できます。ですが、新たなものづくりの展開や可能性も必要とされ、責任あるものづくり、価値あるものづくりのために邁進されているお言葉を伺い、大変刺激のあるお話を拝聴することができました。
なお、高田織物株式会社のホームぺージは下記にご提示しておりますが、SDGsへの取り組みも分かり易く紹介され、工場見学なども実施されております。また、企業のビジョンとして、伝統的な素材や模様に限らず、畳縁や織りの技術を通じて、世代や国境を超えたポップカルチャーへの昇華を掲げられています。
先述しましたように私自身が用途以外のものづくりに興味を持ったのはこのようなベースが関係していたように感じました。企業のミッションにおいては「現状を常とせず新しきを織る」と掲げられ、織物の縦糸に対してどのような横糸を打ち込むかによって新しいものづくりが展開される思いが綴られています。
ヒンドゥー教では、縦糸がスートラで地縁や血縁を意味し、横糸がタントラで今日を生きていくという哲学的な思想を本から学んだことを思い出しました。当時、この思想に刺激を受け、織物による立体造形作品を制作したことがあります。織物は人類の歴史とともに歩み、常に変化し続けてきていように感じます。
高田織物株式会社は真の価値あるものづくりを目指していることが伺え、今後の展開が大変楽しみです。倉敷市児島の繊維産業は先に挙げました通り多品種であり、瀬戸内も近くにある素敵な地域です。ぜひお立ち寄りいただければ嬉しく思います。
高田織物株式会社
REPORTER:田中孝明(TDA執行委員)
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