REPORT 22 有松鳴海絞り 伝統と革新を巡る特別ツアー

3 月 28, 2025

2025年3月28日、TDA産地教育委員会主催の産地見学会「有松鳴海絞り 伝統と革新を巡る特別ツアー」が開催されました。TDA会員、一般、学生あわせて総勢28名が参加し、江戸時代から400年以上続く絞りの町・有松を訪れました。歴史ある工房や商家を巡り、熟練の技を間近に体感するとともに、世界的ブランド「suzusan」での特別プログラムにも参加。伝統と現代が交差する有松の魅力を存分に味わう一日となりました。


技の迫力とやさしさ 
 有松鳴海絞会館での実演見学

研修の最初のプログラムは、有松鳴海絞会館での実演見学でした。絞りの担い手である女性が布を折り畳み、糸でぎゅっぎゅっと脈を打つように締め上げていく姿は、迫力にあふれていました。糸が布に食い込む強さの中にも、布を大切に扱うやさしさがあり、絞りの技が力と繊細さの両面から成り立っていることを実感 しました。「子供の頃、夏休みに糸括りをして、初めてお金をもらった時に仕事として成立したと感じた」と語る言葉には、絞りが生活に根づいていた時代の記憶 がにじんでいました。糸括りの一定のリズムを刻みながら、さまざまな技法を実 際に示してくださり、「自分の手に合わせて道具を作る」とのお話からも、技を長 く続けるための工夫を知ることができました。学生たちは、迫力とやさしさが同 居するその手仕事に深く引き込まれ、真剣なまなざしで見つめながら質問を投げかけ、伝統の奥深さに触れていました。


有松絞りの祖を継ぐ家 ― 竹田嘉兵衛商店

次に訪れたのは日本遺産構成文化財であり、名古屋市指定有形文化財でもある竹田家住宅。有松絞りを考案した “有松・鳴海絞りの祖” 竹田庄九郎の流れをくむ商家が、寛保年間に分家して誕生した「竹田嘉兵衛商店」を訪れました。有松で現在も着物を扱っているそうです。重厚な絞り作品が並ぶ座敷にて、竹田昌弘氏から直接お話を伺いました。徳川家茂や勝海舟も訪れたと伝わる茶室をはじめ、歴史がしみ込んだ空間で語られる言葉からは、伝統を守りながら新たな挑戦を続ける竹田家の姿勢を強く感じることができました。


suzusan
 ― 伝統を未来へつなぐ挑戦

有松駅から徒歩 2 分ほどの場所にある、suzusan の世界観を幅広く体感できる国内唯一の直営店にて、ドイツから帰国中の村瀬弘行氏によるトークショーが行われ、 その歩みと理念についてお話をいただきました。村瀬氏は「ブランドを作り、自分たちで需要を生み出すことで伝統を次につなげる」と述べ、2008年にブランドを立ち上げた経緯について語ってくださいました。現在は世界約 90都市120店舗で展開しており、ドイツ側がデザインと欧米市場のマーケティングを、日本側がものづくりとアジア市場を担う体制についてもご説明いただきました。社員の半数が 生産に携わり、20~30 代を中心とした社員が有松の職人たちと交流を持ちながら 活動していることもお話にありました。有松は分業による多彩な技法が特徴ですが、 分業をつなぐ人材の減少が課題となっています。そのなかで suzusan は企画から生産までを一貫して行い、絞りの魅力を製品に落とし込むことで伝統技法を守り続けているとのことでした。海外展開については「キッチンに醤油がない人たちのニーズに応えた」と語られ、この言葉が特に印象に残りました。需要に応じて伝統を進化させる視点の大切さ、そして伝統を未来へつなぐために新しい視点を持つことの重要性を改めて感じさせられ、参加者にとって大変貴重な時間となりました。


工房見学 ― 手仕事の現場を知る

フリータイムでそれぞれ有松の街並みを散策し、江戸時代の面影を残す町家や文化財建 築に触れた後、「Studio Suzusan」 と 「SUZUSAN FACTORY」 を訪れました。ここでは、グループに分かれて絵刷りや型彫りの実演や、実際の商品の生産過程を見学しました。Studio Suzusan では、スズサン会長の村瀬裕氏から、絵刷りや型彫りの技法について詳しくお話をいただきました。おおらかなお人柄の中に、長年技術を担ってきた重みが感じられ、学生たちはその言葉一つひとつに真剣に耳を傾けていました。実演を通して、繊細な作業の積み重ねが有松絞りを支えてきたことを実感することができました。 SUZUSAN FACTORY では、製品の仕上げ工程や染色作業を見学しました。染色する 湯気が立ちのぼる中、生地の特徴に応じて染料の濃度や染色の時間を変えながら作業が進められる様子を間近に見ることができました。その工程については丁寧に説明を受け、 色合いの違いや仕上がりにどのような影響があるのかを学ぶことができました。 現場では若手の職人さんが伝統技術をしっかりと支えている姿も印象的でした。学生にとっても身近に感じられる存在であり、興味を持って熱心に見学する様子が見られました。

久野染工場―ヒートセット工程の見学
最後に訪れたのは久野染工場でした。ここでは、熱と圧力を加えることで素材の形状を記憶させ、立体的で独自の風合いを生み出すヒートセット工程について、久野浩彬氏から説明を受けながら見学しました。さらに、ハンドプリーツ加工をはじめ、さまざまな布に表情を与える特殊加工技術についてもご紹介いただきました。工場内を巡りながら実際の設備や作業工程を目にすることで、伝統的な染色の知恵と現代的な技術が融合し、 耐久性と美しさを兼ね備えた製品づくりが行われていることを実感することができました。 今回のツアーを通じて、伝統を「守る」だけではなく、「現代にどう活かし、未来へど うつなげるか」という視点が重要であることを強く感じました。参加者にとって、歴史を踏まえつつ新しい挑戦を続ける有松の姿勢に触れられたことは、大変貴重な体験となりました。

REPORTER  :  竹中明子(TDA執行委員) 

有松・鳴海絞会館  :  https://shibori-kaikan.com/

株式会社 竹田嘉兵衛商店  :  https://www.takeda-kahei.co.jp/ 

株式会社スズサン  :  https://suzusan-shibori.com/ 

有限会社絞染色 久野染工場  :  https://shibori-zome.com/?utm_source=chatgpt.com


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