REPORT_23 植山織物 ̶ 伝統と革新が息づく播州織
伝統技術と技術革新によるものづくり
兵庫県多可郡多可町は、豊かな自然と清らかな水に恵まれた、日本有数の織物産地「播州織」の中心地として知られています。植山織物は、その地で 1948 年に創業しました。播州織は、糸を染めてから織る「先染め」の綿織物で、シャツやストールなどに使われる軽やかで心地よい風合いが魅力。植山織物は、その伝統的な技術を受け継ぎながら、新たな時代の感性やニーズに応えるものづくりへと挑戦を続けています。
さらに、工場内には 4,000 種類を超える生地のストックがあり、長年培ってきた技術と経験がそこに蓄積されています。 これらのサンプルは QR コードで管理されており、必要な情報を迅速に検索・共有できる体制を整えています。こうした管理システムと豊富な在庫により、注文から納品までをスムーズかつ的確に対応することが可能となっています。
生地の製造からはじまった植山織物では、現在ファブリックブランド「BasShu」やシャツブランド「Shuttle Notes」など、5 つのブランドを展開しています。いずれのブランドにも共通しているのは、播州織の技術を土台としながら、新たな価値を生み出そうとする姿勢です。ショールームで拝見して印象的だったのは、生地にあえてブリーチ(漂白)やダメージを加える加工技術でした。伝統的な織物に “ラフさ” や “経年変化” といった新たな魅力を与えることで、テキスタイルそのものをひとつのプロダクトとして成立させています。
こうした取り組みが形になるまでには、さまざまな試行錯誤があったといいます。新たな挑戦のたびにトライアンドエラーを重ね、時にはアイデアが形にならないこともあったそうです。それでもものづくりを続ける姿勢を大切にし、 少しずつ新たな展開へとつなげてきました。現在では、海外の著名ブランドや国内の有名セレクトショップとのコラボ レーションも活発に行われています。
持続可能なものづくりへの取り組み
同社は、環境や社会への配慮を重視した生産体制の整備を進め、持続可能なものづくりを目指して取り組んできました。 こうした姿勢が評価され、自社工場で製造する生地について、播州産地として初めてオーガニック繊維製品の国際基準である「GOTS(Global Organic Textile Standard)」認証(サイジング・製織工程)を取得しています。GOTS は環境保全や生産者の健康、社会的規範にまで配慮した総合的な国際基準であり SDGs の観点からも世界的に注目されています。
また、生産の過程で発生するサンプルや余剰在庫についても、無駄にしない工夫を行っています。一部は販売されるほか、 近隣の福祉事業所などに寄付され、寄付先ではそれらの生地を活用してポケットティッシュケースなどの雑貨を製作・販売。地域における就労支援の一助となっています。
さらに2023 年からは、織物の生産過程で生じる “生地の耳” を、私たち日本テキスタイルデザイン協会が運営する「mimi project」へ提供していただく取り組みも始まりました。本来であれば廃棄される素材が、今ではインテリア・ファッ ション雑貨やアート作品などへと生まれ変わり、ものづくりの現場から新たな循環が生まれています。
地域とともに歩む発信・教育活動
植山織物では、地域に開かれた取り組みとして、一般の方や学生を対象にした「オープンファクトリー」を開催し、工場や製造現場を公開しています。スライドを用いた講義形式での解説や質疑応答も行われており、地元大学をはじめとする教育機関との連携も大切にしています。こうした活動を通じて、ものづくりの背景や産地としての魅力を直接伝え、地場産業への理解を深める場づくりに取り組んでいます。また、年間を通じて出張講義などの教育的な活動も続けています。
さらに「播博」や「もっぺん」といった地域内の織物業者が一堂に会する産地合同の展示会にも参加し、同業者と協力しながら産地の魅力発信に力を注いでいます。こうした継続的な取り組みにより、消費者や来場者はもちろん、学生や若手クリエイター、さらには地域外から訪れる人々へと、播州織産地の魅力を幅広く届けています。
REPORTER : 牛尾 卓巳 (TDA執行委員)





コメント
コメントを投稿