REPORT_19 「和紙を現代のあたりまえに」/山次製紙所

【山次(やまつぎ)製紙所】

所在地は福井県越前市大滝町という自然豊かな場所に位置しています。この地域は清らかな水と豊かな自然に恵まれ、古くから越前和紙の産地として知られていて、工房の近くには紙祖神「川上御前」を祀る大瀧神社があり、手仕事を守る職人の方々の聖地として親しまれています。


山次製紙所は明治元年創業の手漉き和紙の工房です。伝統を守りつつ独自の製法を生み出し、「和紙を現代のあたりまえに」をビジョンに現代の技術と融合させた新しい技法で日常に馴染む和紙商品を展開しています。特に工房独自の技法「浮き紙」は表面の凹凸がはっきりとしており、柄が浮いたように見えるのが特徴で、また裏側がフラットなので貼り付けたり、縫ったりできるので布で作るような加工ができ汎用性の広い使い道が可能です。

筆者がこの工房と出会ったのは、2023年秋の某企業主催の「日本のものづくり展」で、工房の独自手法「浮き紙」の作品に出会ったことがきっかけでした。浮き紙の想像を超える和紙の質感と日常に向けての多様な用途の作品に感銘を受け、昨年2024年秋に、手隙き和紙の現場に伺う機会があり、その感動を伝えたくてレポートにさせていただきました。

和紙はかつて日本人の暮らしに欠かせない存在だったのが、洋式の生活環境の変化でその役割が減少してしまいました。工房は和紙が今の日常で使われる環境を目指し、工房の現場や作品を、国内だけでなく海外に向けてもSNSで発信しています。

デジタル化が進む近年では、紙の存在意義をも問われる時代に、丈夫で加工がしやすい和紙が、暮らしの中で自然に使われるような環境をつくって行きたいと山次製紙所様独自の冊子でも語っておられます。次ページにその冊子から画像を抜粋させていただきました。

【昨年2024年11月工房に訪れた際のレポートです】
冊子抜粋の中の工房ビジョンとして掲載されている「浮き紙」と「透かし」の作品と工場見学の報告になります。以下添付は「浮き紙」と「透かし」技法と作品 (工房の冊子より抜粋)



オンラインでも販売されている茶缶や名刺入れ、紙箱は浮き紙を貼り付けた作品で、一筆箋は透かしの技法で製品化された作品です。どれも暮らしの中でその質感を楽しめ、 心を豊かにしてくれる作品です。

工房では残念ながら浮き紙の制作現場は非公開とのことで、通常の和紙づくりの現場を見学させていただきました。現場では巳年のカレンダーづくりの作業中でしたが、代表の山下氏自身が作業の工程をとても詳しく説明してくださいました。 代表の山下寛也氏は伝統工芸士で「浮き紙」の商標登録者であり、小売店やメーカーとのコラボレーションやOEM、オンラインショップ開設など活動範囲を広げ、地場産業の発展にも力を注いでおられます。

【工房見学】手漉き和紙の制作現場を撮影
2025年の干支のカレンダーを製作中の現場、干支の型を漉いた後の作業から彩色、カレンダーの和紙に絵型を載せて圧搾器で水分を抜いて乾燥させます。全て手作業で一日の仕上がりが80枚程度という根気のいる丁寧な手仕事です。

【工房展示室】
先にご紹介しましたように工房のWEBサイトでも購入が可能な茶缶やカードケース、ボックスなど無着色の和紙の色だけでなく、後染めによるカラーのバリエーションも楽しめます。企業とデザインのコラボレーションも行い、プロジェクトを組み多様な商品の販売、海外からの視察や問い合わせもあり、工房を訪れる国外来客の対応もされています。

【浮き紙】以下の画像は作品室にて撮影


個人的には、和紙本来の質感が活かされる生成りのままの素材とその作品にも心惹かれます。海外のバイヤーにも大変人気があるそうです。
【透かし】
一筆箋や原稿用紙、またお酒のラベル等に使用される透かしの手法は、浮き紙とはまた違った和紙の表情です。和紙の外枠のふわ~っとやわらかなぼかしの質感も手仕事ならではの仕上がりです。


【まとめ】
和紙はエコやサスティナビリティーの観点からも「伝統的で持続可能な素材」として再び注目されています。

素材の持つ繊細で温かみのある質感やデザイン性が、インテリアやファッション分野でも高く評価されています。近年注目されているテイスト「ジャパンディ」、北欧スタイルと和のテイストを融合したナチュラルでシンプルなインテリアにも和紙はとても相性の良い素材です。

山次製紙所工房のビジョン、「和紙を現代のあたりまえに」はすでに日常に浸透しており、今後、国内外でさらに認知度が高まることが期待されます。代表の山下氏は地場産業の発展に力を注ぎ、若いクリエーターへのデザイン公募展やワークショップなど、積極的に活動をされています。またSNSを活用したプロモーションも行っており、時代に即した発信をされている点がとても印象的でした。

現場の職人さんの中にデザイナーを兼ねた女性スタッフがおられ、話を伺うと、手漉き和紙の魅力に惹かれこの世界に飛び込まれたそうです。多くの業界で職人の高齢化が進む中、次世代の人々がもっと関心を持ち、この業界に 足を踏み入れてほしいと感じました。どれほどデジタル化が進んでも、現場での体力的に厳しい作業と両立しなければ、日本の伝統産業が時代とともに持続するのは難しいと感じます。実際に作業を見学し、その重要性を強く実感しました。

最後に地場産業の後継者育成に対しても熱く語ってくださいました代表の山下氏に、繁忙期にもかかわらずお時間をいただいたことを心より感謝いたします。

山次製紙所
〒915-0234 福井県越前市大滝町29-5

REPORTER: TDA執行委員 吉村千恵子













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